内容
夏目漱石を敬愛し、ハルさんを愛する青年は、信州にある「24時間、365日対応」の病院で、今日も勤務中。読んだ人すべての心を温かくする、新たなベストセラー。第十回小学館文庫小説賞受賞。
癌だと告げた時も、痛みが出たときも、けして悲しみを表に出さず
穏やかだったあの安雲さんが泣いていた。
感想
医療ものというよりは、人物ドラマに近いものでした。
現代医療の問題点も織り交ぜながら、主人公「一止」の視点で繰り広げられる長野県の病院の物語。
映画のような描写と、一人称体でありながら客観的視点を感じさせられる部分も多く、物語として憶測しやすかったです。
医療の葛藤まではいかなくとも、所々に現医療の問題点が投げかけられてます。
医療に関する話ですが、一止の古風な口調なのか、重くならずにすんなりと読むことができました。
また、一止が暮らす三嶽荘の、変わり者と呼ばれるであろう友人たちとのやりとりもひとつの見所。
「桔梗の間」の住人、絵描きの「男爵」。
「野菊の間」の住人、大学院生の「学士殿」。
たまに名酒を酌み交わし、夜通し語り合う仲だの彼らなのだが、学士殿の身辺の変化によって、彼らにも別れの時がやってきます。
人と人とのやりとりが、どれも心あたたまるもので、読んでやさしい気持ちになれる本でした。
※少しネタばれ含みます。
医者は、助かる見込みのある者には、最初からできうること全てをもって最善の治療にあたるが、問題は助からない人だ。
末期癌や手の施しようがない患者は、大学病院から追い出され、行くあてもなく、ただ死を待つのみ。
自分が死ぬ間際、世間から見放されたらどうだろうか。
家族がいる者はいいが、孤独な老人は意外と多い。
一人寂しく死んでいくのは、孤独というより恐怖に近いでしょう。
「病むということは、とても孤独なものなのだ。」
文中の言葉が胸に刺さります。
もちろん、大学病院のような最先端の技術を研究する機関があるから、治らなかった病気が治るようになり、新たな薬も開発され、助かる患者が増えることになるのも事実。
どちらが正しいかなんてない。
みんなそれぞれの役割がある。
一止が、医局と現医療の間で悩んでいたけど、最終的にはここにたどり着いたんでしょう。
安雲さんが病院に戻ってきた場面でも、安雲さんさんの何気ない言葉とかが、涙を誘いました。
胆のう癌で、大学病院でも助からないと診断されて、一止の病院に戻ってきた安雲さん。
彼女が病院で過ごす中、たまに語る亡くなった夫の話や、
徐々に弱っていく中、誕生日に許された外出や、文明堂のカステラ、
自分が死んだらかぶせてくれと一止に頼んでおいた帽子などが、全部最後の手紙の部分でよみがえってきました。
この安雲さん手紙は、迷っていた一止の心を救ったのでしょうね。
(↑ぼろ泣き(笑))
最先端医療ではなくても、そんなもの必要としない患者と向き合う医者も、少なからず必要でしょう。
この本を読んで思ったのは、結局、人を救えるのは、薬でも技術でもなく、人なんだということ。
「生きる」とは、心臓が動いて息をしていることではなくて、人の心の中に存在できるかどうかではないでしょうか。
そして、学士殿が旅立つその日、門出を祝うかのように一面の桜の絵を描ききった男爵。
不器用でも美しい男の友情に泣きました。
そこで過ごした5年間が、言葉なんかよりも強く胸に伝わってきました。
この場面はこれ書いてる今も、あぁ…やばいまた涙が…(笑)←感動屋w
最後に
ぜひ映画化してもらいたい作品です。
個人的なイメージからすると、
- 一止は 中村獅童さんか、山田孝之さん
- ハルさんは 宮崎あおいさん
- 学士殿は 森山未來さん
- 男爵は 真田広之さん
- 学士殿の姉は 小雪さん
でしょうか。
あくまで私のイメージですがw